義兄弟グラビリ、グラハム(父子)×ビリー(母子)設定。
*
「絶対に、嫌だよ」
単語ごとに力を込めて吐き捨てると、つい半年前にできたばかりの義弟は可愛らしい顔をあからさまに歪めてみせた。
呆れた顔をしているだろうことは気配でわかる。頑なにベッドに座り込み微動だにしないビリーを見下ろして、彼は小さく唸ったようだった。
「あー……」
あー、じゃない。そんな抜けたような声を出すなと思ったが、余計なセリフを吐いたら負けだとばかりにビリーは口を噤んでいた。
幼くも利発そうな外見の通りというべきか、グラハムは口がうまい。
気を抜けば丸め込まれてしまうのがわかっているからこそ、ビリーは先ほどから必要な単語しか口にしていなかった。
呆れようが唸ろうが、ビリーの決意は変わらないのだと知らしめるために。
ただでさえ、この可愛らしい義弟には出逢った当初から振り回されてばかりなのだ、こんなときくらいは兄の威厳というものを示さねば兄である意味がない。
「あなたの気持ちも、わからないことはないが……」
嘘をつけ。
そう叫び出しそうになるのを、ビリーは必死で堪えた。
グラハムにビリーの気持ちなどわかるはずがない。
よく回る頭と人並み以上の容姿に恵まれ、どこから生まれるのかわからないが絶対的な自信を持って生きてきた彼に、コンプレックスまみれのビリーの気持ちなどどうしてわかるだろうか。
四歳も年下のグラハムに迫られてビリーが慌てる姿はさぞかし愉快だったろう。
頭ひとつ分も小さなグラハムに組み敷かれ為すすべもないビリーの様はどんなにみっともないものだったか。
これまでは深く考えないようにしてきていた様々なことが脳裏を巡っていた。無性に腹が立つ。そう云ったら、グラハムはなんと返すだろう。
今まで、新しい環境に慣れていないだろう弟を甘やかしてきた自覚があるだけに、ビリーの決意は固い。
床を睨みつけてグラハムをちらとも見ようとしないビリーに、傍らに立つ声がぽつりと落ちてきたのは、沈黙がどれほど過ぎたころだったろうか。
「……もう、勘弁してもらえないだろうか」
正直カチンときた。
それを云いたいのはこちらの方だ! 我慢ならずにそう叫ぼうと顔を上げると、しかし予想に反してグラハムは深く頭を垂れていた。
見上げているはずのビリーからも、彼の表情は見えない。
どうしたのだろう。ぐるぐると思考は回る。今までの会話をその様を思い返し、ビリーを襲ったのは――まごうことなき、自己嫌悪だった。
グラハムはまだ子どもなのだ。4歳も年下の、子どもなのだ。
そんな彼に、わざと厳しい態度をとる必要があったろうか。自分のつまらないプライドのために、彼をひどく傷つけてしまったのではないだろうか。
甘いとは思う。甘すぎるのだと、わかってはいるのだ。わかっている、けれども、
「そんな顔を、しないでくれ」
グラハムの言葉に心は揺れる。
そんな顔とはどんな顔だ。思ったけれど口には出せなかった。
ここで否定をしたら、グラハムが消えてしまいそうな、そんなことはあるはずがないとわかっているのに、思わずにはいられなかった。
この新しい弟を、傷つけたくはない。ただそれだけのことだった。
「ビリー」
名を呼ばれ、視線が合う。
グラハムは困ったように眉を寄せていた。苦しげにさえ見えるのはビリーの中に少なからず罪悪感があるためだろうか。
――けれど、そう思ったのは一瞬だった。
「……え?」
肩に軽い感触があったような気がして、気付けばビリーの身体はベッドに横たわっていた。
顔のすぐ横にはグラハムの右手が。そうして、グラハムの左手はその反対側でビリーの右手首を抑えつけていた。
彼はベッドに乗り上げているのだろうか。自分たちの状態の想像がつかず、けれど自分が間抜けな格好でいることだけはわかっていた。
なにを、しているのだろう。彼は、自分は。
つい先程までとの状況の違いのせいで、思考が追いつかない。けれど冷静に考えればわかるはずだった。この状態は、普段ならばビリーにの脳裏に赤信号を点滅させるレベルのそれであると。
ぐるぐるとした思考に陥ってしまったビリーを尻目に、グラハムは殊勝にもビリーの肩に額を当てる。しゅんとした態度に思えるのは、彼の顔がやはり苦々しげに歪んでいたからだろうか。その呟きもまた、どこか苦しげで、
「そんな可愛い態度でこられたら、――襲わずにはいられない」
けれど、その口から零れた言葉は、後悔だとか反省だとかそういったものからはかけ離れたもので、一瞬でビリーの思考を現実に引き戻した。
「グラハ……っ!」
はめられた、と気付いたときにはもう既に遅かった。
苦悩していたはずの天使は、いつの間にか鮮やかなまでの悪魔の笑みを浮かべていた。
******************************
そろそろ両親にカミングアウトしたいんだけどとかしらっと云ってのける弟グラハムに、どの面下げてそんなこと云いやがる絶対に嫌だと断固として拒否する兄ビリーのお話。シリアスに見えてコメディちっく。結局のところ、グラハムはビリーが好きで好きで仕方なくて、ビリーはグラハムが可愛くて仕方ないみたいです。
実はこれが、一番最初に思いついたグラハム父子設定の本編的なお話(でもこの話が出てくるのは中盤以降だと思われ) 設定編で書いた仮タイトルは、元々はこの話につけていたタイトルだったりするのです。思いつきなので内容めちゃくちゃですが(汗)
これが父子設定の本編――といいたいところですが、この手のシリアス風路線は多分グラハム母子設定が担ってくれるので、グラハム父子設定はこれのコメディ部分が強くなりもっと軽くはっちゃけた感じになる予定であります。
そのうち試しに双方とも5つくらいのお題でちまちまやってみようかなと。まともに書くとどっちも長編になっちゃうから(苦笑)
「絶対に、嫌だよ」
単語ごとに力を込めて吐き捨てると、つい半年前にできたばかりの義弟は可愛らしい顔をあからさまに歪めてみせた。
呆れた顔をしているだろうことは気配でわかる。頑なにベッドに座り込み微動だにしないビリーを見下ろして、彼は小さく唸ったようだった。
「あー……」
あー、じゃない。そんな抜けたような声を出すなと思ったが、余計なセリフを吐いたら負けだとばかりにビリーは口を噤んでいた。
幼くも利発そうな外見の通りというべきか、グラハムは口がうまい。
気を抜けば丸め込まれてしまうのがわかっているからこそ、ビリーは先ほどから必要な単語しか口にしていなかった。
呆れようが唸ろうが、ビリーの決意は変わらないのだと知らしめるために。
ただでさえ、この可愛らしい義弟には出逢った当初から振り回されてばかりなのだ、こんなときくらいは兄の威厳というものを示さねば兄である意味がない。
「あなたの気持ちも、わからないことはないが……」
嘘をつけ。
そう叫び出しそうになるのを、ビリーは必死で堪えた。
グラハムにビリーの気持ちなどわかるはずがない。
よく回る頭と人並み以上の容姿に恵まれ、どこから生まれるのかわからないが絶対的な自信を持って生きてきた彼に、コンプレックスまみれのビリーの気持ちなどどうしてわかるだろうか。
四歳も年下のグラハムに迫られてビリーが慌てる姿はさぞかし愉快だったろう。
頭ひとつ分も小さなグラハムに組み敷かれ為すすべもないビリーの様はどんなにみっともないものだったか。
これまでは深く考えないようにしてきていた様々なことが脳裏を巡っていた。無性に腹が立つ。そう云ったら、グラハムはなんと返すだろう。
今まで、新しい環境に慣れていないだろう弟を甘やかしてきた自覚があるだけに、ビリーの決意は固い。
床を睨みつけてグラハムをちらとも見ようとしないビリーに、傍らに立つ声がぽつりと落ちてきたのは、沈黙がどれほど過ぎたころだったろうか。
「……もう、勘弁してもらえないだろうか」
正直カチンときた。
それを云いたいのはこちらの方だ! 我慢ならずにそう叫ぼうと顔を上げると、しかし予想に反してグラハムは深く頭を垂れていた。
見上げているはずのビリーからも、彼の表情は見えない。
どうしたのだろう。ぐるぐると思考は回る。今までの会話をその様を思い返し、ビリーを襲ったのは――まごうことなき、自己嫌悪だった。
グラハムはまだ子どもなのだ。4歳も年下の、子どもなのだ。
そんな彼に、わざと厳しい態度をとる必要があったろうか。自分のつまらないプライドのために、彼をひどく傷つけてしまったのではないだろうか。
甘いとは思う。甘すぎるのだと、わかってはいるのだ。わかっている、けれども、
「そんな顔を、しないでくれ」
グラハムの言葉に心は揺れる。
そんな顔とはどんな顔だ。思ったけれど口には出せなかった。
ここで否定をしたら、グラハムが消えてしまいそうな、そんなことはあるはずがないとわかっているのに、思わずにはいられなかった。
この新しい弟を、傷つけたくはない。ただそれだけのことだった。
「ビリー」
名を呼ばれ、視線が合う。
グラハムは困ったように眉を寄せていた。苦しげにさえ見えるのはビリーの中に少なからず罪悪感があるためだろうか。
――けれど、そう思ったのは一瞬だった。
「……え?」
肩に軽い感触があったような気がして、気付けばビリーの身体はベッドに横たわっていた。
顔のすぐ横にはグラハムの右手が。そうして、グラハムの左手はその反対側でビリーの右手首を抑えつけていた。
彼はベッドに乗り上げているのだろうか。自分たちの状態の想像がつかず、けれど自分が間抜けな格好でいることだけはわかっていた。
なにを、しているのだろう。彼は、自分は。
つい先程までとの状況の違いのせいで、思考が追いつかない。けれど冷静に考えればわかるはずだった。この状態は、普段ならばビリーにの脳裏に赤信号を点滅させるレベルのそれであると。
ぐるぐるとした思考に陥ってしまったビリーを尻目に、グラハムは殊勝にもビリーの肩に額を当てる。しゅんとした態度に思えるのは、彼の顔がやはり苦々しげに歪んでいたからだろうか。その呟きもまた、どこか苦しげで、
「そんな可愛い態度でこられたら、――襲わずにはいられない」
けれど、その口から零れた言葉は、後悔だとか反省だとかそういったものからはかけ離れたもので、一瞬でビリーの思考を現実に引き戻した。
「グラハ……っ!」
はめられた、と気付いたときにはもう既に遅かった。
苦悩していたはずの天使は、いつの間にか鮮やかなまでの悪魔の笑みを浮かべていた。
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そろそろ両親にカミングアウトしたいんだけどとかしらっと云ってのける弟グラハムに、どの面下げてそんなこと云いやがる絶対に嫌だと断固として拒否する兄ビリーのお話。シリアスに見えてコメディちっく。結局のところ、グラハムはビリーが好きで好きで仕方なくて、ビリーはグラハムが可愛くて仕方ないみたいです。
実はこれが、一番最初に思いついたグラハム父子設定の本編的なお話(でもこの話が出てくるのは中盤以降だと思われ) 設定編で書いた仮タイトルは、元々はこの話につけていたタイトルだったりするのです。思いつきなので内容めちゃくちゃですが(汗)
これが父子設定の本編――といいたいところですが、この手のシリアス風路線は多分グラハム母子設定が担ってくれるので、グラハム父子設定はこれのコメディ部分が強くなりもっと軽くはっちゃけた感じになる予定であります。
そのうち試しに双方とも5つくらいのお題でちまちまやってみようかなと。まともに書くとどっちも長編になっちゃうから(苦笑)
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